庭の日誌

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【読書の感想】街路樹は問いかける: 温暖化に負けない〈緑〉のインフラ

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読んだのはしばらく前になりますが、読書の感想になります。

 

「街路樹」という言葉を聞いて、 どのようなイメージを持たれるでしょうか。


都会を潤すオアシスのような存在。
夏は日差しを遮り、季節ごとの姿は街に良い景観をもたらす。


そんな役割が街路樹には求められているのだと思いますが、 なかなか現実はうまくいっていないように思えます。


なぜなら、街路樹にはぶつ切りにされ残念な姿になった木が多いように感じるからです。


私自身も、造園会社に勤めていた時は街路樹をぶつ切りに切った経験があります。 経験があるというより、 むしろそのような施工の方が多かったです。


なぜそうなるのか。
考えられる理由をいくつか挙げてみます。


・交通との兼ね合いで安全なスペースの確保が必要
・電線との兼ね合いで枝を詰める事が必要
・落葉へのクレームに対処するため思い切った剪定が必要
・そもそも、そのように切るよう指導される(自治体の意向?)
・公共物なので無闇に伐採できない


簡単に表現してしまえば、「色々なリスクを回避する為には、 切り詰めて剪定するのが最も望ましい」という事だと思います。


こうなってしまう一番の原因は、「 街路樹は、枝を伸ばせるスペース不十分な場所に植えられている事が 多い為」だと思います。


今回読んだ本「街路樹は問いかける」では、 グリーンインフラとしての街路樹の理想的な役割として、「高い樹冠被覆率による温暖化防止」を挙げています。「 樹冠被覆率」とは、 都市の面積に対して樹冠が覆っている範囲がどれだけあるかという割合になります。
この数値が大きいと、 木陰が広い範囲に広がっていることになります。


切り詰められた街路樹の樹冠被覆範囲は当然狭く、 グリーンインフラとして十分な役割を果たしているとは言えません 。


また、切り詰められた木の姿というのは本当に痛々しく、 自分の町がディストピアになってしまったような悲しい気持ちにさ せられます。


これは、剪定を行う施工業者だけの問題ではないと思います。


そもそもの道路計画と植栽計画から、 先々の樹木の生育を見越した計画をなすべきですし、 剪定等の保守管理にもはっきりとした方針や十分な教育が必要です 。


また、市民の意識が高まり、自ら動き、行政を動かすような作用も必要です。
電線や道路の狭さを考えると、道のりは険しいように思えますが。


これは「誰が悪い」というような問題ではなく、 社会全体で取り組んでいくべき事だと思います。


この本には、ドイツ、フランス、米国など欧米諸国や、 日本の1部都市におけるグリーンインフラとしての街路樹管理への取り組みが興味深くまとめられています。

 

これを読むと、 少なくとも私の居住地は大分出遅れていると思わされますし、 私個人が描いている理想が欧米では着々と実現しているような雰囲気に圧倒されます。


余談ですが、木をぶつ切りにすると、 木は反発するように強い枝を伸ばし、樹形を回復しようとします。(樹種によりますが、街路樹に関しては大体そうなります。)
この働きには「頂芽優勢」「オーキシン」「サイトカイニン」 といった言葉が関わってきます。( 高校生物でも触れる内容らしいですが、私は全然覚えていません( TT)


ぶつ切り後、 一斉に伸びた強い枝を手入れするのは本当に大変です。
私自身、そういった辛い作業をいやというほどしてきましたので、 いつかその辺りの事も記事にしたいと思っています。

 

コンパクトで読みやすく、充実した内容でした。

岩波ブックレットの他の本も読んでみたいと思います。